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連載第1回 (2009/2/16公開)

「テアトロン」の開拓者たち

東京の歌舞伎座が建て替えられることになり、大阪の新歌舞伎座も取り壊されます。劇場名は上六に移って存続するとのことですが、半世紀の念願かない阪神電車が3月20日から乗り込んでくる「なんば」の駅前から、あの独特な外観の建物が姿を消すというのは寂しい気がします。

 千日前(現・ビックカメラの場所)にあった旧歌舞伎座の後を受けて、1958年に建てられた新歌舞伎座は、昭和を代表する建築家、村野藤吾(1891~1984)が設計を担当しました。大阪に事務所を構えた村野の作品としては心斎橋の旧そごう本店が思い出されますし、東京の日生劇場も有名です。(毎年5月15日、村野藤吾の設計になる宝塚市庁舎で、すぐれた建築物を対象とした「村野藤吾賞」の授賞式が行なわれています)

 

新歌舞伎座

<劇場>には、戯曲としてのドラマを見せる「ドロメノン」と、劇場そのものを見せて娯しませる「テアトロン」という二つの機能がありますが、後者は、わが国において道頓堀五座(中座・角座・浪花座・朝日座・弁天座)が率先して開発したといっても過言ではないでしょう。


 宝暦八年(1758)。道頓堀・角の芝居(のちの角座)で、初世並木正三・作『三十石船始(さんじっこくよふねのはじまり)』が上演された際、舞台全体に船を回すスペクタクルが求められました。独楽まわしにヒントを得た正三は、舞台を丸い盆に替え、独楽のように心棒を付けて舞台の下を深く広く掘り下げ、心棒を奈落へ通して回すように工夫したのです。その後まもなく今日のように、舞台の床板を丸く切りぬき、舞台そのものを奈落で回すようになりました。
 舞台中央がクルリと回って場面転換する、この「廻り舞台」の発明は、舞台場面の転換を速めるのみならず、観客の目前で装置を回すことで異なる二つの場面の状況を交互に見せる演出を可能にしたという意味で画期的でした。寛政五(1793)年には江戸・中村座に移され、明治以降は西洋の劇場にも影響を与えて、鉄道のターンテーブルなどに採用され日本に逆輸入されたというわけです。舞台床を切って奈落から人や大道具を上下する「セリ」は、宝暦三(1753)年、道頓堀・大西の芝居(のちの浪花座)で上演された『けいせい天羽衣』に三間四方のセリ上げを使ったのが始まりで、やがて、舞台床下から大道具の屋体などをセリ上げる<大ゼリ>、俳優の上がり降りに使用する<小ゼリ>、「スッポン」と呼ばれる花道のセリ上がりなどが登場します。さらに、大道具をひっくり返して場面転換する「がんどう返し」、大道具が崩れ落ちる「屋体崩し」、台車に人や物を乗せて移動させる「引枠」といった仕掛けが続々と道頓堀から生まれました。全国から観光客を集める四国こんぴらの金丸座も、天保年間の道頓堀の芝居小屋を模して建てられたものです。

 その道頓堀五座も、すべて消え失せ、かつて浪花座のあったところに、その前身・竹本座の碑が建つのみというのは寂しい限りですが、独創的な舞台機構は大阪松竹座の舞台に伝承されています。(松竹座の初春歌舞伎は夜の部が大人気、二月の花形歌舞伎もよく売れているようです)。
日本の劇場文化を育てた街として大阪を見直したいものです。


 さて、現在、歌舞伎界で活躍する、関西系の俳優が初舞台をふんだのは、どこの劇場でしょう。坂田藤十郎が道頓堀の角座、その子である中村翫雀・扇雀は東京歌舞伎座、片岡仁左衛門・中村富十郎・坂東竹三郎が道頓堀の中座、片岡我當が千日前にあった大阪歌舞伎座、片岡秀太郎・片岡愛之助が京都南座、上村吉弥・片岡進之介が新歌舞伎座…平成以降は、いま注目を集めている板東薪車をはじめ、大阪松竹座で初舞台を踏んだ若手が増えつつあります。


3月7日(土)には大東市立生涯学習センター「アクロス」で片岡愛之助、3月12日(木)には兵庫県立芸術文化センターで上村吉弥のトークショーが開かれます。(共に、聞き手は河内厚郎が務めます)


        

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